山中の警備員が楽だった思い出

私が大学生のころ、世間はバブルの真っ盛りでした。街中だけでなく山や海のある田舎ですらあちこちで建設ラッシュの時代。
私が今までの人生で一番楽ちんだったと感じているアルバイトは、そんな日本中がバブル景気の真っ盛りの時代にやった警備員のアルバイトでした。
私は当時、スポーツをやっていた関係で、毎日朝から夜まで練習の日々を送っていました。ですから、シフトを組んで入るような長期アルバイトをすることができず、練習が休みになったときだけできる単発のアルバイトをしてお金を稼いでいました。
そんな単発のアルバイトのひとつとしてやっていたのが、「工事現場の警備員」のアルバイトでした。バブル景気の建設ラッシュということもあり、警備員も人手が足りなかったらしく「月に1日でも2日でも、どんな条件でもいいから人が欲しい…」と人材募集担当のおじさんがよくこぼしていたのを思い出します。
その警備会社に登録している若手アルバイトは、普段は交通量の多い現場の交通誘導をよく行っていました。運転席を見上げるような大型のダンプカーやクレーン車などの重機を誘導したり、通行する自動車や自転車、歩行者を止めたり誘導したりするお仕事です。
もちろん座ったりできるわけもなく1日立ちっぱなし。建築現場で重い資材を運ぶ作業員さんより楽とはいえ、夏などは炎天下で立ちっぱなしというのはなかなか厳しいものがありました。
そんな警備員の単発アルバイトを時々していたのですが、大会前で練習が立て込みしばらく警備会社に足を運んでいませんでした。久しぶりの休日になったある日、警備会社に顔を出したとき人材募集のおじさんが近寄ってきて「今日の現場は遠いんだけど…帰りは遅くなっても大丈夫?残業代はきちんと出すから」と心配そうに言うのです。
遠い現場と聞いたことから、大変なことになったなあ・・と思ったのですが、普段からお世話になっているため断りにくく、その現場の仕事を引き受けることにしました。
一緒に警備をする相棒は10年勤務のおじいちゃん。よく顔を合わせる気さくな大先輩でした。そのおじいちゃん警備員の運転する車に乗せてもらい警備をする工事現場に出発。遠いと聞いていたものの、想像以上でした。1時間たってもまだ現場につきそうにありません。周りの街並みはいつしか田園風景に変わり、その田園風景が木立が覆う山道になったころ、車がようやく停まりました。周囲は鬱蒼と茂る森です。
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「え?ここが現場…?」。それが車から降りた私の最初の感想です。降りた道路の周りはこんもりした森で、柱一本立ててる気配がなかったのです。
「こっちこっち」と手招きするおじいちゃん警備員の傍に行くと…その森を少し開拓した飯場のプレハブがありました。その場所から道路を少し進むと、その飯場に誘導する道を作るために道路のガードレールが5mほど、途切れているのです。
「ここだよ」。「え…?」。そんな会話があったような気がします。
そう、ガードレールが無くなった5mの場所に、通行する車が落ちてはいけないとの理由で警備員が派遣されたのでした。しかも大の大人が2名も・・。そんな山中ですから、車の往来は皆無に近い状態。警備をスタートしたものの・・結局、やることが何もありませんでした。何もない大自然な中で、ウロウロ歩いたり、おじいちゃん警備員と世間話をしたり、野原に寝転んだり、やりたい放題でした。
帰りの車の中で相棒のおじいちゃん警備員とその日の出来事を思い出して一緒に笑いました。「今日、2台しか車通らなかったなあ」。
バブル時代ならではの仕事なのでしょうが、未だこれ以上楽ちんな仕事に出会ったことはありません。
                                (40代男性)

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