暇だった美術館監視員のバイト

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以前の私は「楽なアルバイト」そんなものはあるわけないと思っていました。美術館監視員のアルバイトを始めるまでは・・
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私は高校生のときまで、事業をしていた父から仕事についてその厳しさを聞かされて育ちました。父は事あるごとにこんな風に語っていたものです。
「世間には楽な仕事なんてないぞ」
「汗水たらして働かないとなかなかお金をもらうことはできない」
「お金はな、仕事に耐えてその苦労の見返りにもらえるもんなんだ」
そんな言葉を聞きながら育っただけに、私はお金を稼ぐためには、歯を食いしばって耐えなければいけないと考えていました ところがその考えが一変する出来事が大学に入学してしばらくして訪れました。
それは通っていた大学のOBから紹介された美術館監視員のアルバイトでした。仕事場は数日間催される美術館での企画展。そこで短期バイトとして手伝ってくれないかと言われました。ただ、私は美術に関する専門知識がほとんどなく、自信がなかったので「美術についてよく分からないのですがいいのでしょうか?」と質問しました。すると先輩は「誰にもできる仕事だから安心して」とおっしゃいました。
半信半疑で臨んだ美術館監視員のアルバイトでしたが、実際にやってみて想像以上に楽な仕事だと分かりました。その仕事内容は、美術館の展示室の端っこに置かれている椅子に座って監視をするというものでした。
一体何を監視するかというと、展示室内で 来館者が走り回っていたり、飲食をしたり、美術品に手を触れたりするなど禁止行為がなされていないかどうかをです。もしそういった禁止されている行為をしている来館者がいれば注意する、ないしは職員を呼ぶということを行うのが私たち美術館監視員バイトの役割でした。
言ってみれば、大切な美術品を守るという重要な役割を担うということです。いろんなお客様がいらっしゃいますから、大変な仕事を引き受けてしまったものだ・・と少々後悔しました。ただ、父親から再三言われていた「世間には楽な仕事はないぞ」という言葉を胸に、何とか試練を乗り越えなければならないという思いでアルバイト初日を迎えました。
美術館監視員のアルバイトに採用されていたのは大学生または短大生と見られる同年代の子たちばかりでした。簡単な仕事説明を受けた後、持ち場の振り分けがあり指定された展示室へ。その隅に置かれた椅子に座り、緊張しながら美術館の開館時間を待ちました。開館と同時に来館者がぱらぱら来場してきました。
何か聞かれたときにすぐ答えられるよう、念のためにその美術館のホームページで企画展に関する情報や館内の構造について調べてアルバイトにのぞみました。ところが、誰かに何かを聞かれたり注意を促したりせねばならないような場面は、待ってと暮らせる訪れませんでした。
美術館にいらっしゃるお客様の多くは紳士的な雰囲気の人が多く、走り回ったり美術品に手をふれようとしたりする人は全くいらっしゃいませんでした。また、作品について質問をしてくるような人もいませんでした。結局、何も変わったことが起きることなく、私は来館者が作品を鑑賞するのをただ眺めているだけ・・そんな退屈で暇な状態になったのでした。
その企画展が始まったのは土曜で、土曜・日曜はそれなりに来場者数はありました。ところが平日となると、来館者数は激減。さらに暇な状況になりました。雨の降った日などは、私以外に誰も来館者が展示室にいないという時間もかなり長く続いて、「こんなに暇なのに給料をもらえるのだろうか?」と不安に思ったほどです。
来館者がいなければ何も起きようがありません。つまり、私たち美術館監視員のアルバイト達は、ただ暇で暇で仕方ない時間を過ごさざるをえませんでした。やることがなくて暇であるとはいえ、さすがに居眠りをするわけにもいかず、スマホをいじるのは禁止されていたため、ただぼーっと考え事をして過ごしていました。
企画展が始まって4日目のこと、責任者がやってきて「展示室内に誰もお客様がおられないときは、読書くらいはしてくれていいから」という風に言ってくれました。それだけ暇すぎる仕事だということを責任者も重々承知していたようです。ですから来館者がないときはポケットに入れた小説をこっそり読んで暇つぶしをしていました。そんな時間にも時給が発生している訳で、さすがに「こんな楽なアルバイトありえない」と思いました。
働いているというより読書しに来ているようなものですから(笑)しかも椅子に座っているので 足腰が疲れることもありませんし空調の効いた展示室なので快適そもものでした。ただ注意しなければいけないと思ったことがあります。それは、昼休憩過ぎに、眠くなってしまい居眠りしかけたこと。たまたまハッと目が覚めた
とき、ちょうどお客様が向こうから歩いてこられたのが見えました。危なかったと思いました。
後は特に注意すべき点は思い当りません。それくらい、ありえないほど楽なアルバイトだったということです。なお、お客様からは声をかけられることがほんの時々ありましたけれども、大抵はトイレの場所か営業時間のことくらいのものでした。作品について聞かれることは一度もありませんでした。もし聞かれたとしても常駐している学芸員さんに連絡して来てもらえばいいだけなので、いずれにしても安心でした。
美術館監視員のアルバイトをしてみて、美術についての知識がなくても全く問題はないということがわかりました。こんなに楽なアルバイトだったにも関わらず時給はなかなか良かったので割りが良いなとも感じました。こんなに楽にお金が稼げるとは思いもよりませんでした。
美術館監視員のアルバイトは、なかなか募集がないのが難点ですけれども また機会があればまたやってみたいなという風に思います。特に一人で考え事をするのが好きな人にとっては 最高に楽なアルバイトなんじゃないかなと思います
   (学生時代の楽なアルバイト体験談 30代女性)

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