「バイトでもなんでもどんな仕事でも金を稼ごうと思ったら大変だぞ」
「歯を食いしばって汗水垂らして耐えてこそ仕事っちゅうもんだ」
そんな言葉を祖父から毎日聴かされながら育った子供時代。私にとって仕事とは非常に大変なもので、苦痛に耐えた対価としてお金をようやくもらうものだと信じていました。看板持ち(プラカード持ち)のバイトと出逢うまでは・・
19歳の春。晴れて都内にある某大学の大学生になった私は、何かアルバイトをしたいと思いました。そのことをサークルの先輩に相談。ただ、私は大学在学中に取得したい資格があったため、勉学を第一にしたいと思い「勉強と両立できるようなちょっと楽なアルバイトがあればありがたいのですが」と条件をつけました。
すると先輩はこう答えました。「楽なアルバイトか、そうだなあ。プラカード持ちバイト、来週一緒にやる?会社の人に紹介してあげるから」。
プラカード持ちのバイトとは一体どんなことをするのか、そのときはよく分かりませんでしたが、あまり仕事内容を聞いて自信を失くしてしまったらいけないので「はい、よろしくお願いします」とだけ答えました。
そしてアルバイト当日がやってきました。身だしなみを整えてスーツ着用。某ターミナル駅で先輩と待ち合わせをして一緒に某住宅会社に向かいました。私は不安で仕方ありませんでした。なぜなら、祖父の言葉が頭をよぎったからです。おそらく、過酷な仕事内容をさせられ、責任者に激しく叱られたり、場合によっては殴られたりするのかもしれない。でも仕事は、歯を食いしばり汗水たらしてやるものだから、耐えてこの試練を乗り越えなければならない・・そう胸に誓いました。
住宅会社に到着すると、先輩が社員さんを紹介してくれました。私は先輩と同じ大学に通う大学1年生であることや、アルバイトが初めてであることを伝えました。「君、真面目だね。でももっとリラックスしてくれていいよ。簡単だから大丈夫だよ」という言葉をいただきました。とはいえ、それは気休めに過ぎないと思い、背筋を伸ばして椅子に腰かけていると、アルバイトと思われる人々がちらほら集まってきました。
全員が集合したところで社員さんから挨拶がありました。「今日も先週と同じところでプラカード持ちをしてもらいます。私も現場を巡回していますが、何か困ったことなどあればすぐに連絡ください」そして、大きなプラカードを各自受け取ってぞろぞろ移動しました。そのプラカードには住宅展示場のことが記されていました。
ターミナル駅と直結する陸橋にさしかかったとき「じゃあ、君はここでこんな感じでプラカード持ちお願いします」と指示されました。「え?こうしているだけでいいんですか?」と思わず聞き返してしまいましたが、「そうだよ。簡単でしょ」との返答がかえってきました。
結局、単にプラカード(看板)を支えているだけで6時間で時給は1000円。6時間と言うと長く感じるかもしれませんが、休憩を交代でとっていくので楽チンでした。1時間20分立って40分休憩というサイクルを繰り返していくのです。
プラカードを持っているときに座り込んだりはできませんが、ただ立っているだけ。仕事をしているというよりは、ただ単に暇つぶしをしているようなものでした。「こんなに楽にお金を稼げてしまえていいのかな?本当にお金をもらえるのだろうか?」拍子抜けするのを通り越して、不安にさえ感じたことを覚えています。
看板持ち(プラカード持ち)のアルバイトは住宅展示場でイベント行われる土日祝日だけ仕事がありました。大学に在学している期間、ときどき仕事を引き受けさせていただきましたが、いずれもラクでしたね。注意点としては冬場スーツでも寒いときもあるので、中にセーターを着るなど防寒対策が必要であることくらいでしょうか。
「バイトでもなんでもどんな仕事でも金を稼ごうと思ったら大変だぞ」「歯を食いしばって汗水垂らして耐えてこそ仕事っちゅうもんだ」そんな祖父の言葉は一体何だったんだろう?
今になってみれば思います。昔は仕事とはそういうものだったのかもしれませが、モノが豊かになった現代においては、「楽なアルバイト」「楽な仕事」は探せば結構見つかるのではないかと今は思っています。私は大学在学中に、プラカード持ちのほか、家庭教師、試験監督、交通量調査、特急乗り込み調査など楽なアルバイトをいくつも経験してそう感じました。
(楽なアルバイトの体験談 30代男性)
ラク過ぎて不安さえ感じた看板持ちバイト
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