今から30年近く前、奈良でシルク博と言う地方博覧会があったときの話です。ちょうど、本職の仕事(塾教師)が暇な時期だったので応募したのがガードマン(警備員)の短期バイトでした。
その仕事内容は博覧会のあるパビリオンの入場がスムーズになるよう警備を行うというものでした。そのアルバイトを始める前は、忙しく大変な数日間になるぞと肝に銘じていました。
しかし、その博覧会でのガードマン(警備員)の仕事は、とにかく暇で退屈な仕事だったのです。
まずはそのトラブルが起きそうになり空気感。博覧会にやってくるお客さんは、家族連れや学生、社会人仲間などばかりだったのです。
間違えても酔っぱらいや暴走族が来るような場ではなく、実に平和な職場でした。
あと余談ながら、その博覧会でのガードマンの仕事は、食事つきでした。休憩時間にはケーキ、コーヒーなどの間食まで付いてきて、正に申し分のないアルバイトでした。
そのガードマン(警備員)の仕事は早朝から始まりました。といっても。朝、パビリオンの鍵を開けてまわるのは本職のガードマン(警備員)の仕事です。私のような臨時雇いのアルバイトや学生アルバイトは、横で眺めているだけで、パビリオンが開いて入場者が入ってくるまで、仕事らしい仕事もありませんでした。また、一日の終わりにパビリオンが閉じられるときに鍵をかけて回るのも本職のガードマン(警備員)の仕事。その時も私たちに出番はありませんでした。
では、私たち臨時のガードマン(警備員)が一体、何をしていたかというと、パビリオンの前に2人ずつ、交代で入り口に立つだけでした。来館者を誘導したりということもなく、ただ立っているだけ。初日は、「こんな楽な仕事でアルバイト代がもらえるなんて、本当にラッキーだな!」なんて思ったものです。ですから最初の数日間は、ただひたすら立っているだけで時間の経つことだけが楽しみになってきました。といっても、時間を持て余すようになってから何日も経つと、次第に退屈で退屈で仕方がなくなってきたのでした。
あまりに仕事が暇で暇で仕方がなかったとき、アルバイト仲間のひとりからこんな声が出ました。「こんな楽な仕事でアルバイト代をもらうのは申し訳ない。他にも何かできないかな?」。私も含め他のアルバイト仲間も彼の意見と同感でした。相談し合った末、少しでも入場者を増やそうと呼び込みもすることにしました。呼び込みと言っても、本当に簡単なものでしたが。その声掛けはこんな感じでやりました。私が警備をしていたパビリオンではビデオと人形劇を1時間半ほど上演していたのですが、それが終わると人の入れ替えが行われるのです。そこで私たちは、上演時間直前になると、すこし大きな声で「そろそろ、上演が始まります。まもなく入場をとめますよ」みたいに来場者に呼びかけていたのでした。その声掛けをきっかけにパビリオンに入ってくれるお客さんもいて、警備会社も喜んでくれると思っていました。
ところが、そのアルバイト仲間でやったお客さんへの「声かけ」は、思いがけず、警備会社の社員さんから注意されたのです。「そんなことをしなくても、入ってくるお客は入ってくるだろ。格好悪いからやめてくれ!」と叱られてしまいました。これには、少し驚きました。少しでも入場者を増やして、パビリオンの内容を知ってもらいたいと思ったのですが、そんな必要はないというのです。注意された後、結局、私たちアルバイト警備員は元の退屈な「立っているだけ」の見張りに戻りました。
ちなみに、アルバイトをしている途中で気がついたのですが、パビリオンを運営しているのは、パビリオンの名前になっている企業ではなく、下請けのイベント会社なのです。そのイベント会社の下請けに入っているのが、われわれの警備会社や清掃会社でした。既に受注している仕事ですから、下請け会社は来場者を増やさなくても博覧会が開催されている期間は稼げているわけです。逆に言えば、その期間が終わればその仕事は終わりですから、来館者が仮にようが警備会社からすると何のメリットもないのです。それよりも、何も問題が起きないことの方がはるかに重要なのです。そんなこともあり、無理に入場者を増やそうとして逆に何か問題が起きても困るというわけなのだろうなあと思ったりしました。
当時、仕事といえば、歯を食いしばってできることを全力でやるべきものだと思っていました。暇を持て余すような楽な仕事など、社会には存在しないと思っていました。しかし、その博覧会のガードマン(警備員)のアルバイトを通して「何もしない」「何もできない」という退屈な仕事も世間にはあるということを知りました。警備員の仕事は求人雑誌のほか、「バイト探しはシフトワークス」、【アルバイトEX】などでもしばしば募集がなされています。ただ、警備員(ガードマン)にもいろいろな種類がありますし、派遣される職場環境も警備会社によって全然違っています。楽で暇な仕事の警備員から仕事がキツイ警備員までピンキリなのです。ガードマン(警備員)の仕事を探している人は、その職種からすぐに飛びつくのではなく、その警備会社がどんな仕事を請け負っているのか調べてじっくり検討してみるのがよいと思います。 (暇で楽なバイトの体験談 60代男性)
退屈すぎた、博覧会でのガードマン
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